緩和ケア病院からの「うちでは診れません」

 母が行なっていた治療は抗がん剤の一種である分子標的薬の「タグリッソ」を服用する治療ですが、母の場合、その効果は2019年11月から2020年8月までの10ヶ月しか持ちませんでした。効果が持続する期間は人によって異なるようで、短い人で1年、長い人では2〜3年と言われています。正直なところ、もう少し長く効いて欲しかったと思います。

 札幌医大には月に一度通院していたのですが、タグリッソの服用を開始して2,3ヶ月で原発巣の肺がんが小さくなっていることがCT検査でわかりました。大きな副作用もなく、いい感じでした。タグリッソ40mgの服用では、皮膚の荒れやかゆみ、乾燥等の副作用もほとんどありませんでした。

 ところがタグリッソの服用を開始して10ヶ月目のCT検査により原発巣の肺がんが大きくなっていることがわかりました。それはつまり、タグリッソの効果がなくなったということであり、タグリッソによる治療が終了することを意味していました。

 札幌医大では、タグリッソで効果がなくなった場合には、もう「他に治療法はない。緩和ケアに〜」という流れになるようです。つまり大学病院ではこれ以上積極的治療を行わないということを意味しています。当然、私たち家族は別の方法を模索しました。ネットや知人友人から得た情報をもとに、市内の別の病院を「セカンドオピニオン」として受診してみましたが、残念ながら結果は同じでした。積極的治療を行っている病院では、タグリッソでの治療で効果がなくなった患者の場合、さらなる治療は行わない方針の病院が多いようでした。

 私たちは、母の年齢(当時80歳)と体力、そして糖尿病や狭心症という持病があることなども考慮のうえ、家族で話し合った結果、やむなく緩和ケアに移行することにしました。

 問題は、どの選択肢を選ぶか、つまり病院に外来で通院するのか入院するのか、あるいは在宅で緩和ケアを実践するのかということです。当初、私たちは市内でも緩和ケアで評判の良い病院を選択し、その病院で最期までお願いしようと決定しました。ところが外来で2度目の通院のときのことですが、その病院では、母の咳止めの処方にあたり、最初の外来通院で処方された「強い麻薬系の薬をやめたい」という私たち家族の意向をお伝えしたところ、ドクターは語気を強めこう言いました。「そういうことでしたら、うちの病院では申し訳ないですが、お役に立てないと思います」。

 実は、最初に診てもらった時点でその医師の雰囲気からあまりいい印象は持っていませんでした。そして、2度目の通院となるその日にも私たちが感じたのは、「咳止めの処方で患者と家族の意向を尊重できない(話もほとんど聴いてもらえず一方的に麻薬系の強い薬を押しつけられた)病院・医師に、看取りまでを任せることはできない」ということです。

 その医師の態度は、少なくとも私たちからすると、病院がホームページで謳っている「緩和ケアは決して[症状のコントロール]だけが緩和ケアではない」と理念とはほど遠いものでした。しかし、私たちは医師からそう言われて逆に安心しました。患者や家族の意向を尊重できない病院は本当はこちらからお断りしたいくらいだったからです。

 さて、選択肢は一気に狭まってしまいました。その後、家族会議を開いた私たちが選んだのは・・・。